好景気の米国の「致命的弱点」…資産の流動化がもたらしたもの
資産の流動化とは
資産(アセット)の流動化という言葉をご存知でしょうか?
大きな資産である、不動産で考えてるとわかりやすいのですが、
不動産を買う(建てる)とき、1人あるいは、1社で負担すると
膨大な資金が必要になり、同時に大きなリスクを負うことになります。
この場合、リスクを減らす方法はいろいろあります。
例えばマンションなどは昔から、まだ完成していない段階…
正確には、まだ建ててもいない更地の段階から、分譲を始めています。
いくら大手不動産デベロッパーといっても、大規模な高層マンションを建てるとなれば、
巨額の資金を準備する必要があります。
しかし、マンションを建てて売る前に、資産を全額用意するのは容易ではありません。
ですから、完成より前に、販売を開始して、
内部的なキャッシュフローの問題を解決しておくのです。
大きな建物を建てるとき、デベロッパーは建設会社に対して、
工事の進行に合わせて支払いを数回に分割して支払います。
分割で払うことで最終的には全額支払いますが、
その途中途中で、多額の現金が必要になるのですね。
販売も、第2期、第3期と区切って、その途中ごとに、
事前にマンションの販売を計画的に進めてしまいます。
そうすることにより、販売契約を完了させることができます。
現金売り上げは計上できないまでも、資金の貸し手に対する見え方が
大きく改善するわけです。
マンションという大きな建物を、細かく分けて売るのは、
昔ながらの流動化と言えますし、こうすることでキャッシュフローは
劇的に改善するため、都合が良いわけです。
さらに細分化することで、よりリスクを分担する手法の開発
1980年代に入り、リスクを分担するために、
さらに便利かつ効率的な数々の手法が開発されました。
その方法は、もっと細かく、そして多数に分けることです。
例えば、所有権利をさらに細分化し、100万円くらいまで単価を落とします。
そして、それを1つの証券として銀行窓口で販売するのです。
これにより、購入者は、債券と同じように、
満期まで配当をもらえるような仕組みなどです。
それぞれの証券は細かい単位ですから、住む権利は存在せず、
その“部分所有”に見合った配当が、毎年入ってくることになります。
このように、資産の流動化のうちでも、対象資産を有価証券化し、
資金調達を行う方法を「資産の証券化」といいます。
これは1980年代に米国で始まり、世界的に広まってゆきました。
この手法で、1つの大きな資産が多数の証券に分けられ、
それぞれの証券は自由に売買される…
つまり流動化ができたことになります。
ここで、配当とはなにか考えてみましょう。
不動産の場合ですと、実際の購入者のローンの金利部分であったり、
賃貸家賃であったりと様々なバリエーションが挙げられます。
証券が満期になるのは購入者のローンが終了した際です。
賃貸の場合は、長期間(場合によっては永久に)オーナーとして
賃貸収入が入り続けることになります。
こうした証券は、所有権としては成立しているため、
“資産に裏付けされた証券(アセットバックセキュリティ)”ともいいます。
今の例は、都市にある巨大マンションを想定して説明したので、
返済が滞ることはまずありません。
しかし、米国ではこれとは異なる手法が普及しています。
いわゆる、サブプライムローン(信用が低い人に高利で貸すローン)です。
これは、あまり収入が高くない人に対し、借金を認めて
その代わり金利を高くしたうえで家を販売し、その家を証券化し販売するという手法。
言うまでもなく、焦げ付く確率が高い手法で、運が悪ければ証券価値がゼロになります。
そして、サブプライムローンを背景に構成された証券を大量に流動化させたのが、
彼の有名な“リーマンブラザース”です。
もともと焦げ付きやすい証券であったために、需要は一気に低迷。
皆さんもご存知のように、2008年9月15日、リーマンブラザースは破たんし、
世界的な金融恐慌に発展してゆきました。
しかし、現在の米国では、不動産ではなく、
自動車でサブプライムローンが巨大化しています。
その理由は、不動産と比べて自動車の方がもっと単価が安いからです。
信用のない人が、自動車を購入する際に組む高金利のローンを、
証券化したというわけです。
NY連銀の発表データによると、
2019年現在も不動産のサブプライムローンは存在はしていますが、
低い水準の残高のため、この問題が再びクローズアップされることはまずないでしょう。
しかし、FRB(米連邦準備理事会)の金融安定報告書によると、
「企業の負債は歴史的水準で懸念すべき状態」と述べています。
家計の負債も、不動産ではなく車のローンが増えています。
以下のデータは、700万人もの米国在住者が、
90日以上支払いが遅れているというものです。
(NY連銀HP 2019.2レポートから引用)
さらに、比率として多いのは18~29歳までの若い世代。
これについてNY連銀は、「驚くべきこと」として発表しています。
(NY連銀HP 2019.2レポートから引用)
今後、金利がさらに低くなるのは決定的で、さらにお金を借りやすくなります。
こういった背景が、米国の空前の好景気のアキレスケン(致命的弱点)
になっていることは知っておきましょう。
このブログではみなさんの資産運用のお役に立てる情報として、
金融、為替(FX)関連のマーケット動向や予測なども随時配信していきますので
次回の記事もご期待下さいね。
では、また次回をお楽しみに!
マーケットの魔術師 奥村尚
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